高度化し続ける業務や労働人口の減少。どんな人材をどう確保すべきか?

高度化し続ける業務や労働人口の減少が企業活動にもたらす影響

業務の高度化と労働人口の減少は、企業にとって深刻な課題です。2018年のパーソル総合研究所と中央大学の調査結果によれば、日本国内だけでも2030年に644~1000万人も労働人口が不足する社会へと突入します。

スキルギャップの拡大

高度な技術や専門知識を必要とする業務が増える一方で、従来のスキルセットでは対応できない「スキルギャップ」が広がっています(従業員のスキルが企業側の需要に追いついていない)。特にAIやデジタル技術の分野では、これらの専門知識を持つ人材が不足しており、多くの企業が人材確保に苦戦しています。

採用コストの増加

優秀な人材が限られているため1人あたりの採用コストが年々上昇しています。優秀な人材を惹きつけるために、給与だけでなく福利厚生やキャリアパス、企業文化の魅力を打ち出すなど競争のカギを模索が激化し、採用プロセスを効率化しつつも魅力的なオファーを提示することが求められます。

離職率の増加

従業員が高度な業務に対応できない場合、ストレスが増大し、それに伴って離職率も上昇するリスクがあります。特に、十分なトレーニングやサポートを提供しない企業では、従業員が過重な負担を感じ、結果として退職を選ぶことが多いと言われています。これにより企業はさらなる人材確保の負担を強いられます。

生産性の低下

労働人口の減少やスキルギャップの拡大は組織全体の生産性低下に直結します。限られたリソースで効率的に業務を進めることが難しくなるため、生産性向上には自動化やAIの活用が不可欠です。日本ではすでに労働生産性が他の主要先進国に比べて低いとされており、この問題への早期対応が求められます。

競争力の喪失

特にデジタル技術を活用したビジネス競争が激化する中で技術人材の不足は企業の競争力低下を招くリスクがあります。技術革新に遅れる企業は将来的に市場シェアを失う可能性が高くなります。迅速なデジタル化の推進と技術人材の確保が今後の企業の成長に不可欠です。

働き方改革への対応が遅れる

リモートワークやハイブリッドワークといった新しい働き方への対応が進まない企業は人材流出のリスクを抱えやすくなります。働き方への柔軟な対応により、縮小する労働人口や優秀な人材の取り合う厳しい環境下での企業の持続的な成長を後押しする事につながります。

サービス品質の低下

人材不足は顧客対応やサービス品質に悪影響へと繋がっていきます。前述のこういった採用活動の対策への遅れは従業員への負担も増えていき、結果として顧客満足度の低下や対応の遅れが発生しやすくなり、長期的な収益にも影響を与えてしまいます。

従来までの採用活動ではどんな事が通用しなくなってくるのか?

大量採用に依存する採用戦略

従来の大量採用のアプローチは、労働人口が減少する中で機能しなくなっています。少数精鋭で効率的に業務を遂行できる人材の確保が必要であり、大量の応募者を集めて篩にかける従来の方法は、非効率で効果的でなくなっています。

人事経験に偏った採用

経験則を過度に重視した採用活動では多様なバックグラウンドを持つ若手人材や、潜在的な能力を見逃すリスクが高まります。経験だけではなく変化の激しい時代に柔軟に対応し、学び続ける意欲や適応力など様々評価していく必要があります。

リモートワークを無視した採用

リモートワークやハイブリッドワークが主流となりつつある中でリモート対応ができない企業は優秀な人材を逃すリスクが高まっていきます。柔軟な働き方を提供できる環境づくりが必要です。

組織のどういった部分に着目して危機感を持つべきか?

離職率の上昇

どの部門で離職が多いのか、退職理由が何なのか、定量・定性的なデータを収集します。また、退職面談を実施して、感情的・心理的な要因や、待遇面・働き方に対する不満を明らかにすることも重要です。離職率の原因が特定できたら、優先的に改善すべき領域を明確にし、組織全体のエンゲージメントを向上させるための戦略を立てます。

ターゲット人材の見直し:採用プロセスで、企業文化や長期的な成長とマッチする人材を見極める。面接時に、過去の離職原因に関連するリスクを排除できるような質問を導入する。

従業員の維持に注力:リテンション施策を強化し、リーダーシップ研修やキャリア開発プログラムを提供することで、長期的に従業員の成長をサポートする。

生産性の低下

業務プロセスや使用しているツールの無駄や非効率性を調査します。また、従業員の仕事量とその質を定量的に把握し、業務負荷が高すぎるか、スキルが不足しているかを確認します。

テクノロジーリテラシーの高い人材の採用:生産性向上を念頭に、デジタルツールや自動化技術を駆使できる人材を積極的に採用し組織全体の効率性を高める。

業務効率化に対する柔軟な姿勢を持つ人材の評価:面接時に過去にどのように業務効率を改善したか、またその経験を新しい職場でどう活かすかを質問します。

新技術導入の遅れ

新しい技術が他社に比べて導入されていない、あるいはデジタル変革が進んでいない場合、最初にIT部門や関連部署の現状を確認します。また、技術導入の障害となっている要因(予算不足、スキルギャップ、組織文化など)を洗い出します。

小規模な試行導入(PoC)の実施:新技術を試験的に導入し、その有効性を測る。

外部リソースの活用:外部の専門家やコンサルタントを招き、導入計画の策定をサポートしてもらう。

技術革新に対してオープンな人材の採用:採用時には、最新技術に対する知識や、変化に対する柔軟な姿勢を評価基準とします。

従業員のエンゲージメント低下

従業員のエンゲージメントが低下している場合、最初に行うべきは、従業員満足度(Employee Satisfaction)や従業員のやる気(Motivation)の指標を詳細に把握することです。これには、エンゲージメント調査や定期的なフィードバックの収集、または一対一の面談を通じて、具体的な不満やストレス要因を探ることが含まれます。また、エンゲージメントの低下が特定の部門や階層に偏っていないかを分析することも重要です。

目標とビジョンの再確認:従業員が仕事に意味を見いだせない場合、組織のビジョンや目標が明確でない可能性があります。従業員に対して、会社の使命やその中で自分の役割がどう貢献しているかを再確認し、共有します。リーダーが従業員と個別に目標を設定し、成長をサポートすることが重要です。

ジョブクラフティング(Job Crafting): 従業員が自身の業務内容を再構築し、自分に合った形で仕事を行えるようにすることで、エンゲージメントが向上します。具体的には、従業員が持つスキルや興味に合ったプロジェクトをアサインする、裁量を増やすなどの取り組みが効果的です。

エンゲージメント重視の人材選定:採用プロセスでは、候補者が自己認識や内発的動機づけに対してどれほど理解しているかを評価します。例えば、面接で「過去にどういったプロジェクトや仕事で最も意欲的に取り組めたか」「仕事を通じてどのような目的意識を見いだすか」といった質問を通じて、候補者のエンゲージメントに対する姿勢を確認します。

どんな人材がこれからの時代にマッチすると考えられるか?

文化的知性(Cultural Intelligence, CQ)

異文化に対する理解と適応力の高さが、グローバル化が進む現代のビジネス環境では重要視されています。文化的知性を持つ人材は、異なる文化的背景を持つ同僚や顧客と効果的に協働でき、国際プロジェクトや多国籍チームでのリーダーシップを発揮します。

なぜ必要か?:高度なスキルを持つ人材が必ずしも単一の国や文化に限らないため、企業は文化的多様性を活かしつつ、グローバルでの競争力を維持する必要があります。CQの高い人材は異文化間で誤解を最小限にし、信頼関係を築けるため、組織にとって貴重です。

見極めるには?:外国語のスキルや海外経験だけでなく、異文化間での成功体験を具体的に質問するインタビューを通じて、相手のCQを判断します。

システム的思考力(Systems Thinking)

システム的思考力とは、複数の要素やプロセスが相互に関連し合っている状況を把握し、問題の全体像を理解できる能力です。これにより、特定のアクションが他の領域にどのような影響を与えるかを考慮しながら、長期的かつ包括的な戦略を立てられます。

なぜ必要か?:業務が高度化し続ける中で、複雑なプロジェクトや組織間の連携は避けられません。システム的思考を持つ人材は、これらの相互依存を理解し、効果的な解決策を見出すことができます。

見極めるには?:状況や問題を俯瞰して説明させ、部分的な解決策ではなく、全体的な影響を考慮した答えを引き出す質問を行います。

探索的学習能力(Exploratory Learning)

新しい技術や知識を主体的に学ぶ意欲と能力を指します。探索的学習能力の高い人材は、自ら学び続け、未知の分野にも積極的に挑戦します。

なぜ必要か?:技術の進化が急速な現代において、既存の知識だけでなく、次々と出現する新しい知識や技術を取り入れ、活用できる能力が求められます。このような人材は、企業に革新をもたらします。

見極めるには?:自ら新しい技術や方法論を学び、適用した実績について具体的なエピソードを尋ねます。

感情知性(Emotional Intelligence, EQ)

自分自身と他者の感情を理解し、それを管理する能力です。特に、チームや顧客との関係を築く際に重要なスキルです。

なぜ必要か?:雇用環境の変化やチームの多様性が進む中、感情知性が高い人材は、他者との信頼関係を強化し、ストレスフルな状況でも冷静な判断を下すことができます。

見極めるには?:自己管理や他者との関係構築に関する過去の成功体験を通じて、EQの高さを評価します。

デザイン思考(Design Thinking)

問題をユーザー視点で捉え、創造的かつ実践的な解決策を生み出す手法です。デザイン思考を持つ人材は、顧客やクライアントの潜在的なニーズを発見し、それに応えるプロダクトやサービスを設計できます。

なぜ必要か?:顧客の期待が高度化し、複雑化する中で、単なる問題解決能力以上に、革新的なアイデアを生み出せる能力が求められています。

見極めるには?:これまでに設計したプロダクトや解決策のプロセスを深堀りして、ユーザー視点でのアプローチや創造性を確認します。

創造的適応力(Creative Adaptability)

創造力と適応力を兼ね備えた能力です。急速に変化する環境において、柔軟に対応しながら、新しいアイデアやアプローチを打ち出す力を持つ人材です。

なぜ必要か?:変化が常態化する今日のビジネス環境では、問題が発生した際に、迅速かつ効果的に適応できる人材が必要です。さらに、これらの適応力に創造的な視点を加えることで、変化を機会に転じることができます。

見極めるには?:新しい状況に直面した際の対応方法や、これまでに採用した独自の解決策について尋ね、創造性と適応力の両面を評価します。

デジタルリテラシー(Digital Literacy)

ITツールやデジタル技術を効果的に使いこなすスキルです。単に技術的な知識を持つだけでなく、デジタルツールを業務効率化や問題解決にどのように活用するかを理解していることが重要です。

なぜ必要か?:テクノロジーがビジネスのあらゆる面に浸透している現代、デジタルリテラシーは、業務効率を向上させ、競争力を保つために不可欠なスキルです。

見極めるには?:具体的にどのようなデジタルツールを使用してきたか、その結果として得られた成果を尋ねることで、実務におけるリテラシーを確認します。

グローバルマインドセット(Global Mindset)

グローバルな視点で物事を考え、異なる文化や価値観に適応できる力です。特に多国籍企業やグローバル市場でのビジネスにおいては、欠かせない特性です。

なぜ必要か?:労働力の流動性やマーケットの国際化が進む中で、グローバルマインドセットを持つ人材は、国際ビジネスの成功に大きく貢献します。

見極めるには?:海外でのプロジェクト経験や異文化間での業務遂行能力を尋ね、国際的な視野や適応力を評価します。

回復力,立ち直る力(Resilience)

ストレスや失敗から迅速に立ち直る力であり、困難な状況下でも前向きに業務を遂行できる能力です。高度な業務において、困難なプロジェクトに直面した際の精神的な強さが重要です。

なぜ必要か?:高度化する業務では、失敗や逆境を経験することが多くなります。回復力がある人材は、これらの経験から学び、成長することで、企業の持続的な成功に貢献します。

見極めるには?:逆境をどのように克服したか、失敗から何を学んだかを具体的に質問し、回復力のレベルを測定します。

アンラーニング,学びの修正(Unlearning)

古い知識や慣習を意識的に捨て、新しい知識やスキルに適応する能力です。変化の速いビジネス環境では、古い成功モデルが必ずしも有効ではないことが多く、これに対応できる人材が求められます。

なぜ必要か?:過去の成功に囚われることなく、新しいアプローチや考え方を柔軟に取り入れられる人材は、急速な変化に適応しやすく、企業のイノベーションを加速させます。

見極めるには?:過去に自身のスキルセットをどのように見直し、どのようにアップデートしてきたかを尋ね、アンラーニングのプロセスを確認します。

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